ルーマニア語通訳をして(2)

前回の記事で、「通訳とはすさまじい集中力を要する仕事である」とかえらそうに書いてしまった、集中力のない通訳です。皆様お元気ですか。

通訳には同時通訳者と逐次通訳者の2種類がいますが(両方する人もいる)私はほとんど、逐次通訳しかしません。同時通訳が必要な場面というと、「テレビのニュースで大統領にライブでインタビュー」とか、首脳レベルのでっかい国際会議で通訳ブースが設置されるようなとこ、とかじゃないですか(偏見?)。ルーマニア・日本関係の通訳をしていて、そのような場面はほとんど発生しません。英語通訳とか「花形」の人たちはそういった機会がざくざくあるんでしょうが。私がすることが多いのは、商談の席とかセミナーでの通訳です。

また、同時通訳は専門の学校で、そのための技術を勉強しなくてはいけませんが、ルーマニア語・日本語通訳のためのそういった学校はありません。なので、私はちゃんとした同時通訳ノウハウを学んでいません。正直言って同時通訳をするのは怖いです。逆に、英語の同時通訳の方のブログを読んだら、「同時通訳ばかりやっているので、逐次通訳をたまにすると、やり方がわからなくて混乱する」と書いておられましたが、そういうことなのかもしれません。同じ「通訳」でも同時と逐次は、頭の回路の使い方が違うんだと思います。

というわけで、今回は逐次通訳について書きますが、まず下の図を見てください。逐次通訳の流れです(実際の顧客の1回あたりの発言はもっと長い)。
b0040048_564248.jpg

このように、顧客が何かを発言して、それを通訳は一旦頭の中に記憶して、次の瞬間にそれを訳して発言すると言ったことを繰り返します。そのつど、通訳は前回の日記で書いた1~8の手順を繰り返します。顧客が一瞬前に言ったことを集中して記憶し、それになるべく忠実な訳をしなくてはいけません。これを常に行っていると、何が起こるかというと、短期的な記憶力が飛躍的に向上します。

しかし、あくまでも短期的な記憶力です。一瞬前のことは完璧に記憶できるのです。一瞬前のこと(記憶①)を記憶し、それを訳し(放出①)た瞬間、記憶①を保存する前に、次の情報(記憶②)が入ってきます。今度は記憶②を完璧に記憶し、訳して(放出②)、次の記憶③に備えます。記憶③を完璧に覚えるために、前の記憶①、記憶②は消去されます。会議中、えんえんそれの繰り返しです。

つまり、私の頭の中は「一瞬前の顧客の発言は完璧に覚えられるけど、すでに訳し終わった発言はメモリーから消去」という状態になるわけです。他の通訳の方はどうなのかわかりませんが、前回の日記で書いた1~8の手順をえんえん繰り返していくために、私の脳内は、ものすごく容量の少ないフロッピーディスクみたいなことになっています。少しのことなら完璧に再生できるけど、大量の情報はぜんぜん入らないのです。他の情報を入れるためには、先に入っていた情報を消去しなくてはいけません。

たまに通訳に話す時間を与えず、20分ぐらい続けて話す発言者の方がいますが、その場合、私はその訳を口にするまでは、その内容はかなりの精度で記憶できます。しかし、訳を口にした後はすぐに、メモリーはほぼ白紙に戻ります。

ですから、ルーマニア側、日本側交えての商談が終わった後「いやー、いい通訳でわかりやすかったです」と言われると、とてもうれしいのですが、「ところで、○○氏だけど、例の件は何ていってましたっけ・・・私、メモを取っていなくて」とか言われると、非常にピンチです。大ピンチ。だって、私の頭は一瞬前のことしか再生できないのです。すでに訳し終わった発言は記憶の彼方です。

「えっ、ちゃんと通訳していたのに、自分で言ってた内容を覚えてないんですか」といわれることもありますが、大体仕事が終わった後は、仕事中に言ったことは半分くらい霧の中です。あくまでも短期的集中力しかない私の頭。もちろん、通訳に商談の内容を確認するのは悪いことではありませんが、「通訳は話した内容を全部覚えている」と期待するのは難しいかもしれません。あくまでも顧客自身で、通訳を通して聞いた相手の発言をメモするなり、記憶に留めることが得策かと思います。え、そんなメモリー容量の少ない通訳は私だけですか?

「前回の日記で通訳しながらメモとるって言っていたじゃないですか。メモを見ればいいでしょう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。それは、着眼点はいいのですが、なかなかそうもいきません。

その理由は・・・、次回に続きます。

今日の教訓:「通訳者とは、一瞬前に言ったことを再生する装置である」
[PR]

by heedoosama | 2007-01-29 05:15 | ことば・おしごと  

<< ルーマニア語通訳をして(3) ルーマニア語通訳をして(1) >>